ブルックスブラザーズの破産に思う
アメリカの紳士服ブランド「ブルックス・ブラザーズ」がコロナ破産とのニュースが飛び込んできました。
ブルックス・ブラザーズと言えばアメリカン・トラディショナルの雄。創業200年を超えるアメリカでも最も歴史のある紳士服店です。
歴代大統領のスーツを仕立ててきたことでもよく知られ、軽くwikiったらケネディ大統領が暗殺されたときに着ていたのも同社のスーツだったそうです。
報道によると、コロナパンデミックの影響を受け、今日までにすでにいくつかの店舗は閉鎖しており、アメリカ国内の工場も閉鎖に向けた準備を進めていたとのこと。パンデミック前にも、ファストファッションの浸透やオンラインでの競争の中で苦戦していたようで、さもありなんという気がします。
たしかに近年あまり名前を聞くこともなくなったというか、アメトラ自体がそもそも過去の遺物というか(個人の見解です)、少なくとも絶好調ではなかったというのは間違いないと思いますが、人生折り返し・団塊ジュニアど真ん中の私にとってそれは、ある種のノスタルジックを感じる存在なのです。
ブルックス・ブラザーズの代名詞はオックスフォード生地のボタンダウンシャツ。
なにしろボタンダウンシャツを初めて世に送り出したのが同社です。
社会人生活を始めた20数年前、給料日前には絶食するような生活のくせに、おそらくはアメリカへの無知なあこがれから、決して安くはないここのシャツを何着も買ったものです。
オックスフォード生地のボタンダウンシャツ、少々野暮ったいです。胸ポッケに羊の刺繍もないだろと思います。
しかしそんなシャツををスーツスタイルでも(むしろそっちで)好んで着ていました。だいたい、そもそもここの服は身幅が広く(イタリアンやブリティッシュと比較して、それがアメリカンの特徴とざっくり理解されていました)、細身の自分には全然似合っていなかったと思うのですが。
ともあれ、そんな苦笑いとセットの思い出とともに、若かった時代の、そして今にして思えば、アメリカなる概念がまだ大いに若者を、世界を惹きつけていた時代の、遠くなりゆく記憶となって小生の胸の奥底をちくりちくりと刺すような気がする、そんな存在なのです。
(公式Twitterより)
もっとも、私自身は、寂しさのようなものは覚えるけれども、それだけで、別に困りはしません。
私はいわば流行りに乗ってここのシャツを買っていたに過ぎません。
「それはかっこいいから、いいものだから流行ったのだろう」
との反論もありましょうが、だいたい人の体は100人いれば100通りなのに、ここの服がいちばんかっこいいなんてことがあるわけない。
いいもの、に関しては素材だの縫製だのあるでしょうが、所詮マシンメイドの大量生産です。
別に若気の至り、ジェントルマンの黒歴史の片棒を担いだからと言ってdisられる筋合いはないでしょう、ゴールデンフリースさんも大メーワクだと思いますが、言ってしまえばファストフッションと比べられ、負けたのです。そういうことです。
ゴールデンフリース(公式サイトより)
もちろん、大統領が既製品を着るわけないし、セレブもしかり。そうしたオーダー品は一流の職人さんやらデザイナーが関わるのでしょうから、それはかっこよく、いいものには違いありません。
しかし、そのブランドだからといって店舗の吊るしに一般人がありがたがって高い金を払うのですから滑稽な話です。
吊るしを買う限り、ファストファッションとこうしたブランドとの差はない、控えめに言っても価格差に見合うだけのものはないというのが大体において当てはまり、多くの人がそこに気づいたというのが正しいのじゃないでしょうか。
よって、コロナ倒産と言うけれども、遅かれ早かれその時は来たのだというのが妥当と考えられるのです。
それじゃファストファッションしか残らないかといえば、さにあらず。
かっこいいもの、いいものとは結局似合っているもの。こと大人の装いにおいては身体に合っているものでしょう。
行き着くところは、オーダーしかないと思います。
「オーダーって高いじゃん」という偏見は恐るべきことにまだ根強いのですが、例えばシャツならブルックス・ブラザーズを一枚買う値段で1.5〜2枚作ることができます。
はっきり言ってシャツやスーツに関していえば吊るしが奇跡的に会う人を除いてオーダーすべきです。
似合わない20万円の吊るしのスーツより5万円のオーダー。3万円の既製品のシャツより5千円のオーダーです。断言できます。
素材は二の次で、まずは身体に合っているかが全てなのです。もちろん、金が許す限り素材にはこだわることができるのですから。
危機は淘汰を促し、真に人と時代に求められるものが残っていくことになるのでしょう。
ただ、かっこいい、いいものを身につけたいという欲求はなくならないと思います。
今回の、一時代を築いたファッションのアイコンの終焉は、では、いいものとはなんなのか?を雑誌や雰囲気ではなく、自分の頭で考え、選ぶということが大事で、それは簡単なのだということを改めて気づかせてくれたように思います。
レッツオーダー。