20年履いて決着、J.Mウェストン「ゴルフ」vsパラブーツ「シャンボード」
本日は革靴のスタイルのひとつ「Uチップ」のお話。
その中でも絶えず比較され続けるフランスの両雄、J.Mウェストンの「ゴルフ」とパラブーツの「シャンボード」について掘り下げてみたいと思います。
そして、「ゴルフvsシャンボード」という、私が知る限り少なくとも20年は靴好きのネタにされている永遠のテーマについて、私なりの答えを導きたいと思っております。
お付き合いください。
Uチップという存在
Uチップとは、革靴の甲の部分の飾り革がU字型にモカシン縫いされた革靴です。
それは紳士靴の定番にして、「ドレス過ぎず外し過ぎず」の絶妙のバランスにより高い汎用性を持つ稀有な存在。
カジュアルでいて洒脱な雰囲気を併せ持ち、どんな格好をしようとも上質のUチップさえ履いておけばそこそこ洗練されたスタイルに高めてくれます。
Uチップの代表作
各メーカーで特色あるモデルを作っていますが、Uチップとはずいぶんお国柄が出る靴のようです。
フランスのUチップ
まずは本記事で取り上げるフランスのUチップ。
ルーツは「狩猟用の靴」だそうです。
ガチガチのアウトドアですね。
撃たれたい(画像はイメージです)
代表作は言わずと知れた「ゴルフ」と「シャンボード」。
フランスのUチップは、つま先が丸い(尖ってない)ので、イギリスのUチップと比べると「まさにU」という感じがします。
また、尖っていないことが、服装を選ばないというところにつながっており、こういうところにフランスのセンス、美意識を見る思いがします。
イギリスのUチップ
カントリーシューズがルーツです。つまり、フランス同様にアウトドアの「働く靴」から進化しているのですね。
代表作はエドワード・グリーンの「ドーヴァー」やクロケット&ジョーンズの「モールトン」。
クロケット&ジョーンズの「モールトン」
つま先は軽く尖っていて、シャープな印象を受けます。ドレス寄りと言えるでしょう。
アメリカのUチップ
ルーツはゴルフシューズ。こちらはアウトドアのスポーツです。
スポーツとしてのゴルフの発祥は英国、靴が発展したのがアメリカ、「ゴルフ」の名を冠する世界一有名な靴はフランス。ややこしいです。
代表作、と言っていいのか不明ですがオールデンのコードバンのUチップがあまりにも有名です。
オールデンのコードバンのUチップ
見た目よりボリュームがあります。主張する素材・・どちらかというとカジュアルですね。
ゴルフとシャンボードの比較
それではいよいよゴルフとシャンボードの比較です。
製法と素材
まず製法です。
ゴルフ、シャンボードとも堅牢性の高い靴ですが、ゴルフが本格靴の定番、グッドイヤー・ウェルテッド製法を採用しているのに対し、シャンボードがノルヴェイジャン製法。
これは登山靴などに用いられてきた製法で、パラブーツのお家芸ともいえる製法です。
防水性と堅牢性に優れる一方、厚い靴底に加え、靴底とアッパーの間の空間に太いステッチが覗くという形状のため、どうしてもカジュアルな印象が出ます。
主張の激しいステッチ。パラブーツ
素材はいずれも油分を多く含んだ厚い革が使われますが、革もそれぞれ独自の製法です。
ゴルフが「ロシアンカーフ」パラブーツは「リスレザー」と呼ばれています。
近年ゴルフのロシアンカーフは廃版になり、現行モデルはサイトによると「ソフトカーフ」。どういう素材なのでしょう?
厚さに関してはパラブーツのほうが厚いと感じます。
シェイプ
形について。同じサイズでも印象は大きく異なります。
ゴルフはシャープな印象を受けますが、シャンボードは全体的にボリュームが出ます。
足入れ部分、甲全体ともにシャンボードのほうが高さがあります。
それに加えて、ゴルフのモカ部分が先端寄りにつま先をなぞるように縫われているのに対し、シャンボードのモカ部分は足首のほうに近くなっていて、このことによってシャンボードのボリュームや丸っぽさが強調されているように思います。
履きごこち
どちらがフィットするか?と聞かれたら「ゴルフ」と即答します。
同じサイズ(いずれも71/2)ですが、ゴルフはさすがフィット感に定評のあるモデルだけあって、よく足になじみます。
一方シャンボードは、甲が高い靴であることと、長い間履くにつれ靴底に敷き詰められたコルクがずいぶんと沈むので、そもそもフィットさせるのが難しいと感じます。
汎用性
着こなしにおける汎用性はどうか?ということですが、
- スーツスタイルでもマッチするのはゴルフ。
- ジャケットスタイルになると辛うじてシャンボードも認められる。
- カジュアルならシャンボード。ゴルフも黒以外なら問題ない。
というイメージです。
やはり20年履いて・・・というか年を取って感じるのは、シャンボードはカジュアル用の靴だ。ということです。
若ければ「おしゃれだね」で片付けられる着こなしも、年を取ってくると、スーツ×シャンボードは明らかに「TPOがわからない人」になってしまいます。
シャンボードが、「黒」で「タグがなく」「ステッチが黒い」なら別ですが、、
耐久性
「一生ものというけれど本当か?」
ということです。「使いようによる」といえば身もふたもないのですが、耐久性に関しては断然シャンボードだと思います。
こちらのゴルフ、オールソールをしています。地方ゆえショップに出すということは考えませんでした。ビブラムソールです。
もうゴルフじゃないとすら言えます。実際、オールソールをすると履き心地は別物。だんだん馴染むとは言え直後はあまりの変わりぶりにショックを受けました。
いっぽうシャンボードのほうはゴルフより2,3年古いのですが、オールソールはしていません。減らないのです。
しかしアッパーが限界です。購入したあたりでもうすこしシューケアを知っていれば、問題なくこれからも使えたはずです。
シャンボードの耐久性は驚異的です!
ただ、どちらもきちんとケアすればまさに一生もの。それは実証できたと思います。
その他
オールソールを頼む時、あるいは磨いた靴でショップを訪れる時。
靴に造詣の深い店員さんの態度が変わるのはゴルフです。
一方パラブーツ。何が嫌ってたまに他人とかぶることです。いい靴で価格も手頃という証ですが靴好きとは身勝手なもの。
他人が同じ靴を履いているのは嫌なものですからね。
結論〜ゴルフとパラブーツ、どちらを選ぶべきか
実は、まさに今、シャンボードとゴルフが同時に限界を迎えようとしています。
正確にはまだまだ履けますが写真でお気づきのとおり、傷みが目立つようになってきたのです。
新しいタイプの靴ではなく、同じ靴を買うとしたらどちらを買うだろうか?それを考えたのが本テーマのきっかけでした。
結論を言うとどちらかと言われれば私はゴルフです。
しかしそれは、靴の優劣ではなく、大人ならば、という理由です。
つまり、シャンボードはいい靴で、とにかくタフに使えるのはほかに例を見ないけれども、やはり大人としては仕事には使えない。
また、フィット感に関して、甲が低い私の足にはシャンボードが合わないという事情もあります。
一方、ゴルフはビジネスでも、大人カジュアルでも使えます。茶色系のゴルフさえ持っておけば他がくたびれていても全く問題ないですからね。
おまけにフィットの快適を求めるとこれに勝る靴はそうそうありません。
ちょっと心配なのは、ゴルフはいまもかつてのゴルフなんだろうか?という点です。
何しろ値上がりしました。
ネットでは「素材が変わった」だの、「店員の質が落ちた」だの、不安になる材料も転がっています。
12万円を超える価格に、現行のゴルフは見合っているのでしょうか。
しかし、地方ゆえなかなかこの目で確認することができません。
なんとか近いうちにぜひ実地調査をして見極めるとともに、本記事も追記したいものだと思っています。
2019.3.21追記
南青山のJ.Mウェストンに行ってきました。
念願のマジフィッティングと試着、店員さんとの靴談義を楽しんで参りました。
革については、固い気がしましたが、新品だからなのか製法の違いなのか、私にはわかりませんでした。
結論としてはやっぱり素晴らしい靴だなと思いました。
高いは高いけど革靴みんなそうなってるし、下がることはないのでしょう。
それより、本気で手入れして死ぬまで履ける靴を手に入れたい思いが勝ちました。
店員さんの対応も素晴らしいし買わせに来ないし、何より履いていったゴルフ(10年もの)の紐を無料で替えてくれました…!!
とりあえず、その場はクールダウンしました。が、次行くのは買う時だなと思います。